To Have and Have Not / 脱出 ~海が関わる映画~

2023.06.11

To Have and Have Not / 脱出 ~海が関わる映画~

 

1945年公開「To Have and Have Not / 脱出 」という強烈にしびれる映画があります。

この映画はアメリカ人作家であるアーネスト・ヘミングウェイの作品、「To Have & Have Not / 持つと持たぬと(または持つ者と持たざる者)」が映画化されたとのことですが、どうやら小説の原型は殆ど留めていないようです。

 

主演は銀幕界の超スーパースターである
Humphrey BogartLauren Bacall。 

ハンフリー・ボガートと言えば映画史上に名を刻む名作ラブストーリー「カサブランカ」があります。カサブランカはハンフリー・ボガートを観る映画ですが、「脱出」はローレン・バコールを観る映画と言えるでしょう。

 

ローレン・バコールをご存知ない方は是非この動画をご覧ください。

紫煙を燻らし、鋭い上目使いと低く響く声で、1分足らずで世界中の人を一気に魅了し惹き込んだ、しびれまくるローレン・バコールの登場シーン。 

 

 

 

ローレン・バコールは174cmという恵まれた容姿を活かし、17歳からファッション誌の表紙を飾るモデルとして活躍していました。

そしてモデルから転身。女優としてのキャリアを歩むのですが、そのデビュー作がこの「脱出」。

この映画当時のローレン・バコールの年齢は19歳!!
何食ったら19歳でこんな色気が出るんでしょうか。

 

 

 

第二次世界大戦中の1940年の真夏。釣船の船長を務めるハリー(ボガート)は、宿泊先のホテル支配人から反政府活動のための密航の協力を頼まれます。最初は俺には関係ないと冷たくあしらったハリーですが、片道のみの金だけ持って渡ってきた向かいの部屋に宿泊する流浪者のマリー(バコール)のためにも金を工面してやろうと政治犯の逃亡に関わるヤバい仕事を引き受けます。ラストは惚れたマリーと共に協力した密航から身を引き警察の目から逃れるため海へ出て逃亡するという内容です。

劇中海上やポートに船を泊めるシーン、舞台である西インド諸島らしく真夏の刺すような日差しと熱帯地らしい街の情景、演者の顔に滲む汗など演出がどれも素晴らしいです。

海の男らしくセーラーキャップ、フレアシルエットのセーラーパンツ(デニム?)を着こなし、演者はリネンやベージュ系の明るいスーツを羽織り情景と季節、時代性が調和しファッションの視点でも非常に粋な内容の映画でした。

 

 

 

この「脱出」、ハンフリー・ボガートの演技に特徴があります。

「カサブランカ」での印象的な描写は、表面では冷たく硬派なハードボイルのリックが、実は昔の恋人を忘れられず引きずり、捨てられた過去にとらわれ女性に振り回される男を演じました。

そして「脱出」。映画冒頭はカサブランカとは相反し、ハリーはマリーを振り回すような描写が続きますが、ラストに近づくにつれマリーに振り回され徐々に虜になりました。

ただ、振り回され方はカサブランカのようなネガティブなそれとは違います。随分と年下であるマリーの言動にいつも驚かされ、一枚上手な彼女に振り回されることをむしろ希み期待しているハリーがいました。

 

マリーが何度も浮かべる、相手の心や思惑を見透かすような目つきと笑み。そして何より劇中の鋭い表情から一変、ラストシーンだけ見せたバコールが歯を見せて微笑む笑顔。あの柔らかく甘い表情が眩しく、当時スクリーンの向こう側にいる大勢の男達をこの「脱出」という作品で一発ノックアウトさせたらしいです。

ボガートがバコールに振り回されたのは映画の中だけの話ではありません。
この映画制作の翌年、ハンフリー・ボガートとローレン・バコールは結婚し夫婦となりました。
ノックアウトされたのは観客だけではなかったようです。

 

ハリーのぶっきらぼうで 信仰や政治情勢に屈さず我が道のみを信じるクールな言動。周りの人間への情は厚く、大切にしている物は何があろうと守り抜き突き通す熱い男の生き様がグッとくる映画です。

妖艶な雰囲気と猫のようなしなやかなシルエットと身振りで男をたぶらかし財布をスッて生きてきたマリー。ただハリーにだけは心を開き身を任せ、最後は共に生きることを希む彼女の、終盤になるにつれ冷たい表情から柔らかい雰囲気へと変わっていく心情の描写が印象的でした。

 

以前紹介した70年代の「The Way We Were」も良い映画でしたが、この映画も惹き込まれました。是非観てみてください。